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慢性腰痛に対するロコトレの効果と限界を見極めるResearch-1

1.研究代表者 稲毛一秀
2.研究課題 慢性腰痛に対するロコトレの効果と限界を見極める
3.研究の目的と背景

 慢性疼痛に苦しむ人の割合は,世界人口の20%以上にもおよぶと報告されている.疼痛発生部位としては腰部の頻度が高く,腰痛を主訴に整形外科を受診する患者も多い.慢性腰痛は,患者の生活の質(QOL),日常生活動作(ADL)を低下させるのみならず,健康寿命を低下させる要因である.就労,介護等の側面においては,多大なる経済損失をもたらす疾患であるとも言える.したがって慢性腰痛の診療の質向上は,我々整形外科にとって喫緊の課題と言える.

 そのような背景の中,慢性腰痛を痛みの機構(主に侵害受容性疼痛,神経障害性疼痛)により分類し治療ストラテジーを組み立てる試みがなされている.具体的には,日本脊椎脊髄病学会による脊椎慢性疼痛患者に関する全国調査では,神経障害性疼痛の割合は53%であり,神経障害性疼痛の危険因子として高齢,強い疼痛,長期罹病期間(6ヶ月以上)脊髄疾患が同定され,神経障害性疼痛患者は有意に生活の質が低いと報告されている.一方で2017年に国際疼痛学会(IASP)によって,第3の痛みとして「痛覚変調性疼痛」という用語が導入された.痛覚変調性疼痛については,そのメカニズムに不明瞭な部分が多いのが現状である. 特に,難治性慢性腰痛患者においては痛覚変調性疼痛を有する割合が多いとの報告もあり,その治療ストラテジーの確立が急務である.

4.研究の社会的意義(患者視点)

 ロコモティブシンドローム,サルコペニア,フレイルという加齢現象による病態との関連性及びロコトレの効果を縦断的に調査し,慢性腰痛に対するロコトレの効果と限界を明らかにすることで,より効率的な疼痛軽減に寄与できると考える.本研究の結果は,新しい治療ストラテジーの確立,高齢者の腰痛に関連する3つの要因との関連性の明確化,ロコトレの効果的活用方法の提案として期待される.これにより,整形外科医が日常診療で提供する治療がより具体的かつ効果的となり,慢性腰痛患者のQOLの向上,社会経済的損失の軽減が期待される.

5.本研究が今後の診療にどのように役立つか

 加齢現象と慢性腰痛は非常に密接しており,それらの関連を正確に理解することが診断および治療の観点から重要であるのも周知の事実である.特に高齢者の慢性腰痛に関連するキーワードとして1.ロコモティブシンドローム,2.サルコペニア,3.フレイルの3つが注目されている.重要な点は,これらは独立して存在するのではなく,お互いが重複して存在することが多いということである.しかしながら,慢性腰痛とロコモ,サルコペニア,フレイルそれぞれについての関連を調査した臨床研究は枚挙に暇がないが,これらの3つを俯瞰した多施設調査は数える程度であるため,この点についても本研究にて明らかにすることとした.また,近年,ロコトレが慢性腰痛に有効であるという報告が散見される.ロコトレは,身体機能の維持・向上を目的とした運動であり,特に高齢者のロコモティブシンドロームの予防や改善に有効とされている.しかし,慢性腰痛患者全体におけるロコトレの効果や,どのような患者にとって有効であるのかは,まだ十分に解明されていない.このような背景から,本研究では,慢性腰痛患者にロコトレを施行することで,どのような患者に効果があるのか,または効果がないのかを明確にする目的で,多施設縦断研究も実施する予定である.