単純X線撮影は低コストかつ利便性が高いため腰痛診断の画像検査において最も普及している.単純X線を含めた画像診断の意義については,重篤な状態が明らかでない腰痛患者に対してはルーチンに画像検査を行っても画像検査を行わなかった場合と比較し臨床結果に改善はなかったという報告があることから48,Red Flagsや神経症状のない非特異的腰痛に対する全例への画像検査の実施は必ずしも必要ないと結論づけられた.しかし,その後に報告された非特異的腰痛患者145,430例の診療に携わったプライマリ・ケア医による診療プロセスを分析した結果では,初診から4週間以内で53.9%の患者になんらかの画像検査がなされることで診断を得ていた49.これらの事実を勘案し,患者が有する症状,所見に注意しRed flagsの鑑別を常に念頭において画像検査がなされるべきであり,実地臨床を踏まえれば,全例ではないものの腰痛患者に対する画像検査,特にX線撮影は腰痛の原因の初期診断に意義があるものとして推奨しうる.
MRIやCTは,感染の早期や癌などの診断には単純X線像よりも感受性が高く,Red Flagsの合併が疑われる場合や神経症状のある患者の画像検査として有用である.CTにおいては高解像度での撮影や三次元像構築により変形・変性などの解剖学的特徴や病態を把握しやすい.MRIは,椎間板,椎体終板,傍脊柱筋などの脊柱構成体を評価・精査するうえで有用である.50歳以下の腰痛患者においては椎間板膨隆,椎間板変性Modic type Ⅰの終板変化,腰椎すべり症が腰痛と有意に相関し,MRIの有用性がメタアナリシスで示されている50.一方で,MRI撮像で検出される椎間板変性やその他の変性所見は無症候の患者にもみられることがあるため,プライマリ・ケアにおける早期の画像検査として採用すべきか賛否両論がある.プライマリ・ケア患者に対する早期MRI撮像は,治療コストの増加や,復職・就職率が低下するという報告がある51,52.一方で,早期のMRI検査は全体の治療内容には影響はないものの,わずかながら症状改善に関与するという論文もある53.
現時点で腰痛に対するSPECTの臨床的有効性を研究したエビデンスレベルの高い報告はない.脊椎固定術の偽関節の検出や幼児,青年および若年成人における背部痛の評価,がん患者における良性・悪性病変の鑑別においてSPECTが有用とされている54.
特に椎間板性腰痛の診断・治療法として椎間板造影および椎間板内注射が用いられる.近年MRIなどの画像モダリティが発達したために,透視下の椎間板穿刺は侵襲的な手技であり,診断的な意義の施行頻度は減少しつつある.一方で,その有用性について調査したメタアナリシスからは,椎間板性腰痛患者における椎間板造影の特異度は0.92と高く偽陽性率が6%と低かったことから,MRIなどの非侵襲的な画像検査で椎間板由来の慢性腰痛が疑われる場合は診断に重要性を持つ検査として推奨している55-57.さらにRCTにより少量のブピバカインの椎間板内注射による疼痛軽快が椎間板造影による腰痛再現に加えて椎間板性腰痛の診断に有用であるとする報告もある58.したがって,MRIにおける椎間板変性所見のすべてが腰痛に必ずしも相関しないという事実を踏まえると,症例によっては椎間板造影および椎間板内注射は診断的治療として有用である可能性がある.
腰痛の一因と考えられている椎間関節の関与について,一連の研究において椎間関節に対する診断的ブロックの再現性は低く,特異度が62%と低い一方で偽陽性率が38%と高いことから,椎間関節注射そのものが信頼できる検査ではないとしている59.一方で,椎間関節性疼痛に対して椎間関節神経ブロックを行った症例のうち,80%以上の疼痛軽快が得られた症例の89.5%の症例で2年後でも腰痛の改善が認められると報告された60.この報告には対照群が設定されていないため,結果の解釈には慎重になる必要はあるものの,椎間関節及び神経ブロック注射の有効性については注目すべきトピックである.
神経根ブロックは主に神経根症状を伴う腰痛に対して用いられることが多いが,責任病巣の推定と決定が前提となるため,非特異的腰痛の診断検査として行われることは少ない.根性疼痛を伴う脊椎由来の疼痛の診断,高位決定において中等度のエビデンスがある61,62.
慢性腰痛患者における表面筋電図の解析結果を述べた報告によれば,対照群と比較して慢性腰痛群では正規化ピークEMGスコアが有意に高く,筋力も有意に低下していることを示し,表面筋電図は慢性腰痛患者と対照群を高い精度で区別する検査として有用であることを報告した63.筋電図検査は腰痛患者の腰背部筋の機能不全やリハビリテーションの効果を評価するうえで有用な検査となる可能性がある.